10数年前になるのか、光星舎の親時計を売って、重い大理石の精密時計は私宅からは無くなったのであったが、似た様なのが先日ふと目に入ったもので買うに至ってしまった。
買い戻したという訳ではないが、より古くなって状態もあまり良くない物になった。すぐには動かない。
思い返すと、先に持っていた物も、大理石が真っ二つになっていたりと、かなり酷くはあったが、結構長い事、月に数秒の誤差で良く動いていた。
今はどうなっているのか検討が付かないが、次の持ち主は恐らく動かして使っている事と思う。
今回の代物は当初の箱が付いていた。無いパターンが多い。
機械の状態は生憎、破壊済と言ったところ。
“直そうと頑張った”とは言えないレベル。
形だけ其れらしく戻したという方が良さそう。
輸送で振り子を動かない様に固定をする様に頼んだが、動いてしまってテープは切れている。
振りベラが切れると面倒であるから。
文字盤は錫か銀か。
磨くと白くなるから、錫に銀を混ぜた物かもしれない。かなり生臭いから銀の含有量が多そう。
明治、大正期の精密時計に良くある材質のダイヤルであるが、銀が入っているのは見た事がなかった。
機械を外そうとすると、髪留めのピンが落ちて来たりと、かなり嫌な予感があったが、思った通り振りベラが一切無くなっていた(ーー;)
針金で竿を止めて、ピンに通して吊っていたらしいが、正常に動いたとは考え難いし、安定に動くはずがない。
最低な手直しである。
さてと。
振りベラを作らねばならなくなったぞ。
薄いバネ鋼が何処にやったか分からない。
仕入れると言っても1mは最低でもあって、30mmあれば良い程度で、次の修理は何時になるのか当てがないし、修理依頼もそうそう来るものじゃない(冷やかしだけで受けた事がない)事を考えると無駄が多い。
蓄音器の修理用で持っていた中に、ガバナーのバネ板が何枚かあったと思ったが、あれでは少し硬いか。
ドイツの機械が一台あった様な。あれならば幅も広いし良いかも知れないと思いついて、大掃除をしながら探したが...
結局本体はあったが、振りベラが無かった。もう他に使ってしまったらしい。
代わりにバラしたリレーが出てきて、このリン青銅薄板が使えそうに見えた。
折ってくれた竿から板止めを更に分解、0.08mmの振りベラが2連で入っていたらしい。
ドイツやフランスのもやはり安定を良くするのに2連で入っているのが多い。
もっと振り子が重い(数kg)あるタイプになると、まるでゼンマイの様な幅の太いのが1枚入っている。それはかなり硬い。
リレーをバラしてリン青銅の板を得る事を考えていたが、長さが足らない事が判明したから他を考えて、以前も試して其の儘良く動いているのがあるから、今回も実験する事に。
樹脂であるが、裂け目がなければ破れと引っ張りには強い。
熱には弱いから、夏場に暑くなると振り子が普通の重い物よりか、数倍はあろうかという程の代物がブラ下るから、耐えられないかも分からない事を考えて、1枚であるが全体で支えられる様にした。
まぁまぁ、だから実験して良ければ其の儘、上手くなければ次を考えたら良い。
初っ端から上手く行く事はそうそうない。
何事も積み重ねた方が良い物が出来るかもわからない。
…なんだけど、次のステップとして合理的に量産になると、品物として成熟を超えて腐るのだけども(ーー;)
今は色々な物が売られているけど、結局腐った物が多い。デザインも機械も凝りを感じない。
腕時計なんて、どれもつまらない顔している。昔のはドーム型になっていたり、それに合わせて指針もカーブが付いていたり、ダイアルの文字は真鍮無垢が溶接してあったり、凝っていて所有欲が湧くが、昨今のはプリントに棒みたいに真っ直ぐな指針が乗っているだけで、更に甲高でもなく、立体感もなく、とにかく平面的。
液晶モニタみたいに薄っぺら。
凝った回路のアンプも最近は少なくて、石やらICやらが増幅回路へ入れてしまって、球はお飾りみたい。
球で構成していても、研究不足で薄っぺらいのが目立つ。
私はそういう物からは何も感じないが、それは仕事とは別だから、修理が出来れば、ユニットを取り寄せて交換する事もやるけれども…
難しい。まぁそれは私の趣向というか、求める物の価値観の違いだから、万人に理解される事は難しいのは良く分かる。
こういう事をブーブー言う、私みたいなのが少ないから、淡白な物が作られ売れているのであろう。もしくはメーカーに淡白でも良いよな?と、自然の内に植え付けられてメーカーに飼われているだけかも知れないが。
送り爪も曲げられて破損していたから元へ近く戻す。
これは微妙な部分だから、良い位置を探さなくてはならなく、引き返しの際には、引き抜きになるから、爪がパタパタと良く軽く動かなければならない。曲げられ変形して動きが悪くなっていたが何とか修正。
送りが動いたと同時に、瞬時に引き込みコイルのスイッチが接続され、トリガーが出るが、接点部分も壊され、開いてしまって導通しなくなっていた。
これでは動き続けない。物理的に。
前オーナーは色々やったが、結局壊すだけ壊して、動かす事は不能であり、其の儘廃棄に回ったのだと思われる。
調整してやりようやく1秒毎に送り出しが出来る様になったが、勢いが安定せず、2秒跳びにガンガン進んで行ってしまう症状が出た。
送り爪の曲げ角を調整して行き、良い所迄来たが、まだ不安定で、今度は機械側の送り出し歯車に掛かるテンションが弱いから、これを調整。少し深めに掛かる様にしたから、逆戻りと中間で停止する事なく、区切りの定位置へ戻る様になった。これで不適当なトリガー信号が出なくなったから、振り子が安定して動く様に。
2秒跳びもしない様に調整してやって、掛かり始めと抜けのバネ位置も不適当だったから、これも修正。
筐体バランサーでセンターを合わせて、右に一杯に振り子を振らないと進まないから、機械センターを出すのは、このバネで微調整が効く。
これによってコイルの巻かれているボビン内で引っ掛かり、押し出し、抜けのサイクルが完結するから、相当に良くなっている。
試験。
電池ボックスと思われし部分は壊れている様だから、電源から得て、コイルへ送られている信号を観測していたが、規則正しく出ているから良好。
機械はオーバーホールもしていないし、かなりホコリっぽいが、少し油をくれてやったら良く動く様になった。
研磨剤になるから実験が済んだら洗わないと。
ただトルクというトルクが各歯車には掛からないから、常にゼンマイで力を受けている様な機械の丈夫さは要らないと考えられるが、まぁ良く完成してある。
ps:朝まで持続し動作していた。
8時間で3分遅れだった。
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