A2 Laboratory. Work shop

Abraham Audio Device Industrial Labo.

何を良しとするか

f:id:A2laboratory:20210315210051j:image

お客さんの中に、WEの線は音が良いという方がおられる。

確か、初っ端に会った時にWEの球か線は素晴らしい音だが、どう思いますか?と尋ねられた記憶があるが、WEは電話機以外は所有していない事もあって、元は電話屋だから、それに適した物と思っていると回答した記憶がある。

 

配線の電線もそうであるが、それを長く巻いたらL、すなわちコイルにもなる。

これらを使ったトランスやらを作る人が、お客さんの知り合いに居て、彼はWEを超えたい(?)超えている(?)という事だそうで、話だけでは少々カルト的な印象を自身は感じていて、当人のお客さん自身は漠然と“良い音”だったり、”目の前で歌っているかの様だ“という話が良く出て来るから、尚更に”大先生”が気に入っているのかなという印象が強まった。

目の前で歌っている様だ、という感覚は私には分からない。

試聴曲も流行歌で、7インチシングルである。熱海辺りの、くたびれたホテルに残っているジュークボックスに入っていそうな雰囲気の曲だ。

聞いた感じはジュークボックス其の物の音質である。ただ、低域がぐんと落ちていて、ハイも落ちたら、電話の音質になってしまいそうな、中高域が突起した様な癖ありな雰囲気。

しかしながら、ジュークボックス程度の音では困るというから、また難解で、より電話らしい音を求めているのかと思えば、そうではなくて、更にはハムが気になるという具合だから、旧式の物を求めているのか、ノイズレスの最新型を求めているのか、非常に難しい。

自身は、他人宅で聞いた音が良いなぁと思う事はあまりなくて、音というよりか、音楽其の物が好みだったり、しっくり来ていないと、全くもって良い音だろうが、悪かろうが、特に何も感じなかったりする。

ストリートで演奏している曲を”外”という雑音と共に聞いたものの方が感じるものは多いと思っている。

 

最も自身が気に行っているのであれば、それで良い事ではあって、他人にどうこう言われる事ではないが、良くするにはどうしたら良いかと問われると非常に難しい。

私で良いのか分からないが、それを“分かってほしい”とも言われているのであるが、メニエルは治っていないし、相変わらず耳鳴りはあるから、結論で行けば繊細な部分は大分参っている事に違いはない。

 

§

 

ビニール線はビニールの音がする。テフロンはテフロンの音がする。ゴムはゴムの音がする。絹巻きは、良い音だ。

…何がどういう事で”良い音“という具体性がなくて、ぼやっとしていて乗り気じゃないのは、多分先方も分かって(?)いたかと思うが、先日、その彼、大先生の元へ一緒に連れて行ってもらったのである。

そんなで前の触れ込みがあるから、大丈夫か心配になったが、本人に会ってみると、熱心な研究家という事が分かった。

莫大な費用も物ともせず、買い込んでは全て分解して、構造と設計を知り、自分で作ってみて結果を得る。という職人だった。

本人と話すと、回路がどうの、トランスの巻き方がどうのと、どれも普通の事で、自身の研究結果だという事は明白になった。

カルトらしいオマジナイや、職人技云々ではない事だけでも分かって良かったと思うし、どうしたらより良くなるか、するかという事も色々研究している様子である。

ただ、”これはこれ”と、断言してしまって話が即終わるのは、あまり深く回路研究をしていないのかなと推測。

トランスはかなりやり込んでいる。自分でも作る。

ただ、回路設計はいまいち、WEの過去の参考書を頼りにしきっている様で、伸展は見込めなさそう。

球の面白い使い方、という違った発想が豊かとは思えない。

まぁしかしながら、普通じゃ買えない様な金額の代物を解体してしまうのだから恐ろしい。

それも幾台も仕入れてきて、やっているのだから凄い。

湯水の如く、大金が出せる具合は、正しくWestern、ベル研究所と同じ様である。後に潰れてWestrexになっているが。続けられるだけでも只者じゃない事は分かるが、売れる時の金額も過ごいだろうから、なんとも。

 

出来る事ならば、マネしたいものだが、宝クジ1等が当たりでもしない限りは到底無理難題。研究は楽しいだろうが、やはり物資を買って試せるだけの余裕は私にはないし、売れるのを待ってからでないと、次に投資できないという自転車操業の様なもので...

大先生レベルを期待されても、無理であろう。そんな凄い耳でもない。

 

§

 

大先生の話を聞いていて、面白い事を言うなと思ったのは、一般的なただ組んだ回路はピャンピャンして、ただ明るい音がしているだけ。中身が何も無い音がする。そういうのである。

WEの回路を見ると、ACループが1段づつ揃っているだとか、Gndには200kを通して繋ぎ、信号とDC回路とを隔てているという。

これをただマネをすると、ハムが出るという結果になって、マニア、アマチュアには、受け入れ難い話の様子であるらしい。

WEの回路図集も見せてもらったから、1つ模して作ってみようとは思うが、トランスは結局現代の物になるから、意味がないかな。それも実験しなくては分からないが、WEのトランスが有るわけじゃない、もっぱら、それだけの凄い音を出力するスピーカー?レシーバー?が無いから話にならないかも知れない(笑)

 

専ら、この旧式の回路で何を聞こうか。

1番の問題はそこではないかな。

1920年代のアンプが良い音だと、例えばすれば、入力のソースは何にする。

ハイレゾ音源(?)やらPCで出力した物を再生するのであれば、現代的なアンプの方が良いと思うのであるが、如何なものか。

最も、1920年代ともなれば、無線かSP盤か、フィルムであろう。

フィルムは光学録音であれば、映写機があれば、まぁ当時の音が再現出来るかも知れないが、良い音だったかは、聞いてみないと何とも言えない。

しかしながら、より良くする為に更新するのであって、より悪く更新するのは頂けない。

その事から、改良された物の方が、質は良いはずと考えてしまうが、そうでは無いのかな...

難しい。

大先生はレコードも聞いている様子だったが、CDの方が圧倒的に多い様子。

ステレオ録音をモノ単発で鳴らしている様子だったが、ブレンドしているのだろうか。

まずそこからして、疑問が発生するが、トランスを間に挟んで絶縁を施せば、安いソースでも良くなるという事らしい。

…悪いソースでも、良くなる…要は別の何かになっているのではないかと思う節もある。

高忠実度増幅器の考え方は、良いソースは、劣らせることなく、良い状態で出力する。

悪いソースは、元が悪いから、その悪さを忠実に再現、出力する。

と、こういう考え方である。

しかし大先生は違っている。悪くも良く、良い物も良く。である。

そんな都合の良い事が可能なのか、私には理解が及ばないが、まるで、1Wの消費電力で100Wの音が出せるという様な具合の話に近くないかなとも思っている。

永久機関が無いように、効率が反転する事はない。

だから、不味い料理に、味の濃いソースを多量にかけて、別味にしてしまえば、本来不味かったものも、ソースで美味しくなってしまうという事と同じではなかろうか。

まぁ、この手の話は”答え”が無いから、永遠の探究であろう。

自分の思う感想がとにかく重要。人に言われて合わせるのは、一番良くないこと。

 

 

§

 

帰り際、大先生に”数十万程度のアンプは作らないで、数百万の価値がアンプを作る様に努力せねばならない”と言われた。

…数十万ねぇ、そんな金額にも殆ど達していないかな…後世になってイイモノって言われて残る物を作りたいかなぁ、今は安くても(^_^;)