A2 Laboratory. Work shop

Abraham Audio Device Industrial Labo.

阿部式電気時計 Pat.31144

f:id:A2laboratory:20210326212757j:image

阿部式電気時計こと、阿部彦吉氏の定期時報発生器を入手してきた。

県庁舎、気象台、学校、工場、そう言った場所へ設置される公共用時計であるから、あまり市場に出回る事がないが、最近はぼちぼち見かける機会が増えてきた。

増えたと言っても、年1台出るか程度である。

現存する原型を保つ物は、旧山形県庁舎、旧横浜気象台、旧丸ノ内ビルジングを知っている。

当方の元では、親時計、子時計、共に原形が動作しているが、他では親時計が最新の物へ置き換えていたり、形だけが現存しているという状態であり、完全なるセットで動作している物は定めし他には無いのではないかと思われる。

戦前、大正期の国産初の電気式親子時計である。

最初期は、電話機の発電機を使った無電池式の物で、完全に独立して動き、数十台の子時計を一斉に動作させた。

当時の電力事情と電池事情が良くない事を考えての発電システムだった事と考えられる。

所有の親時計は、もっと多くの子時計を動かす為にか、湿式電池を使った物であり、発電機が搭載された旧型を改良した物と考えられる。

特許番号は同じである。

f:id:A2laboratory:20210326212810j:image

入手の時報制御器は、始業、終業を報せる、所謂自動時限スイッチである。

今では当たり前に時間にメロディが鳴る様に、親時計と共に標準組み込みされていて、単体で見かける事は定めし無い事と思うが、その昔は全てが単体で販売されていた。

用務員室や電力管理室に、それぞれの時計が並び、これらが一斉に動作していた訳である。

機械はバネスイッチが触ってあったが、折られる事なく、修繕が出来た。
f:id:A2laboratory:20210326212804j:image

端子は長年の汚れで全く不通であったが、磨いてやれば問題なく。
f:id:A2laboratory:20210326212755j:image

とりあえず、社員が居るわけではないから、ベルを鳴らす事はしないが、動作させられる状態へ修繕し、子時計として動作をさせておく。
f:id:A2laboratory:20210326212807j:image

親時計は元々1分信号型であるが、手持ちの子時計は30秒型であるから、1分で2信号を出す様に組み替えたのであるが、このセットは1分信号型であるから、2信号入ってしまうと2分進んでしまう事になるから、2信号の内1信号だけを取り出すべく、ダイオードを追加する事でこれらが解決する。

機械の構造上、壊れる箇所は基本的に無いが、励磁によって、電磁マグネットから、鉄片が外れなくなり、時間が進まなくなるという不具合が現れたから、これにより廃棄された事と考えられる。

電磁マグネットには、より少ない電流で強力動作を得る為か、弱いものの永久磁石が取り付けられている様であるから、鉄片が吸い付くのも訳ない。

ここへギャップが生じる様に絶縁材の薄板を挟む事で、吸い付きは回避できる。

以前にも、この様な事があって、元はファイバーや絶縁紙が挟んであった可能性が高いが、実験をしてみて、得た結果が具合良いのである。

ギャップ用の調整ネジが取り付けられていたりする場合もあり、コルクと思われしダンパーが押し込んである物もあったが、劣化していてどの位の物が付いていたのか判断がつかない。

最も、当時の図面も存在しない。

f:id:A2laboratory:20210326212813j:image

当所へ引き込んでいる沖電気の子時計から分配して信号を得る。

阿部式は戦後少し迄は存在していた様であるが、東京電気時計が権利を買い、その後に沖電気に渡っている様子である。

構造はどれも同じで、見ると素材、プレス金型も同じ様なのである。


f:id:A2laboratory:20210326212823j:image

動作確認。
f:id:A2laboratory:20210326212821j:image

時報設定は12時間しかなく、5分毎に1度の信号が設定、発生させられる構造であるが、終業後、深夜にベルを鳴らさない為に、6時手前の12時間毎に切り替え歯車があり、完全自動化をした構造になっていた。

一度動き出すと親時計を止めない限りは、止まる事はないから、24時間表記はないが、万が一止まってしまった場合は、ベルが鳴るのが日中に起きる様に親時計の制御盤を手動へ切り替え、手でレバーを回して調整する必要がある。

その様な事がない様に、親時計の動力である分銅下方には、低下警報のスイッチがあり、運針が止まる前に警報が鳴る仕掛けになっている。

f:id:A2laboratory:20210326212801j:image

時報設定部内部、接点機構部。

f:id:A2laboratory:20210326223152j:image

ケースは端子と機構があるためか、珍しく宮型である。

一般のゼンマイ式時計の小型の大きさと似ているが、それよりも数倍重くドッシリしている。

複雑な機械の塊だから致し方ない。

f:id:A2laboratory:20210326212944j:image

ダイアルは彫り込み文字に黒ペイント、錫メッキである。

錫メッキは触ると変色が起こるが、これは非常に綺麗な状態。

子時計に入っているABEのロゴがある。
f:id:A2laboratory:20210326212947j:image

親時計は正式名称でロゴはない。

ダイアルのフォントが一致している事から、同年代のセットである可能性は非常に高い。

当時のパンフレットでも残っていれば、他にどの様なセットが存在したのか分かるであろうが、恐らく出て来ないと思われる。

 

f:id:A2laboratory:20210326224249j:image

恐らく昭和20年台の子時計デザイン。

阿部式の後期と思われし。

同デザインで東京電気時計から出ているタイプは、定めし新しい。

 

ps:1936年に電電公社によって建てられた建物へ残っていたのと同型であったから、本品も戦前、昭和10年〜20年辺りの品物であろう可能性が高くなった。


f:id:A2laboratory:20210326224218j:image

時代は戦後、マルゼンのパンフレットより一部抜粋。
f:id:A2laboratory:20210326224222j:image

f:id:A2laboratory:20210326224215j:image
f:id:A2laboratory:20210326224244j:image
f:id:A2laboratory:20210326224238j:image
f:id:A2laboratory:20210326224235j:image
f:id:A2laboratory:20210326224231j:image
f:id:A2laboratory:20210326224228j:image
f:id:A2laboratory:20210326224241j:image

東京電気時計のモニタ用子時計

f:id:A2laboratory:20210327104924j:image