A2 Laboratory. Work shop

Abraham Audio Device Industrial Labo.

Schatz ワッチ交代用 船舶時計

数年前にOHした事のある船舶用時計が不調との事で預かりました。

症状は、時報が鳴らなくなる、時計が止まる。

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届いた時には動いていなかったが、暖かい部屋に置いて別の事で呼ばれて戻って来た時には動いているという不思議な現象。時報も鳴っている。

自室へ持って上がり、居間で昼を食べに席を立つ。

2時間程と思うが、戻ったら止まっていた。時報は鳴るが時々回数が減る。

部屋は息が白くなる程寒いから、もしかすると温度に反応を示しているか?
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開腹。

2018年にOHしていた。

機械は綺麗で特に問題な点も見受けられない。

下板程ある大きい鐘が目立つ。

ダブルになっていて、チン コンと鳴るタイプもある。

これはチン チンと同音タイプ。

普通の時報ではなく、4時間分の時報しか組み込まれていない。鳴り方も独特である。

であるから、12時にダブル打ちが4回、半に1回、1時にダブル打ち1回、半にダブル1回半、2時にダブル打ち2回、3時にダブル打ち3回、4時にダブル打ち4回、5時にダブル打ち1回....これを続ける。

半時は毎回ハーフで、例えば1時半ならば、チンチン チンである。

要は、30分毎に1回ずつ増え、4時間後にトータルで8回鳴り、リセットされる。f:id:A2laboratory:20201221161725j:image

とりあえず原因が分からないが、分解すると動いていて止まらないし時報の数も合っている。

少し何か重そうになる雰囲気もあるが、動作はする様になる。
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バラし洗い。

超音波でも良いけどハケ洗いの方が効率が良い。確認しながら進むし、汚れと歯欠けも同時に見つけられる。
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乾燥チェック。

一応再度確認。
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組み立て調整。

流石German make。合理的。

時報部分は、ただ組んだのでは真っ当に動作しない。

自己起動/停止機構のループを成り立たせなくてはならないのであるが、国産のアメリカ式は組み方があって、バラしたは良いが組めないという事態に陥る。

過去にミーハーなそんな奴がいたが、恐らく気抜けしてガラクタにしてしまったであろう。プライドも高くて人の話は聞かんしね。最後は嫉妬で、ありゃダメだ。職人肌じゃない。職人気質もない。

 

まぁそれは置いといて、そういう組み方が悪くても調整でどうにか出来るようにと考えられたのがドイツの構造である。

調整ポイントはテーパーになって圧入してあり、組んだ後から動かせる様になっている。

これを具合良い箇所へ調整するのである。

ハンマーの具合も同じく動かせる様になっているから、停止位置とハンマーとの兼ね合いを調整できる。

これは言わなくても当然の事であるが、あまり動かすと緩む(笑)

テーパーでないシャフトの場合の締め方もあるが、まぁよく考えて....

 

給油前に動作確認をすると、時報の動きが悪い。

洗いで揮発が良いから、キンキンに冷えた事もあるかも分からないが、時報を鳴らす時計との接合部の金属のアームが上板に干渉している事が判明。

どうやら昨日今日始まった事ではなく、結構長く起きていた可能性がある様な擦り傷になっていた。

例えば、これを手前から押してしまって上板へ接触する様に曲げたとした場合、バネ性が無いため、近付きはするが、干渉はそれ程起きない。

組み立てる際にある程度曲げてしまって、それを無理やり組んだ場合は、再現出来るのであるが、今回はこのアームは外さなかった。

前回もおそらく外していないと思う。

他にも良くみると、緩く円を描く様に曲がっているアームがあり、ハンマーも上がった位置を確認すると、テンプの歩度調整金具に干渉する事が分かった。

これでは時報が鳴らなくなるし、上板に干渉していて時計の方にも負荷が掛かるし、時報はスタートしないしで、負荷に負荷となった事であろう。

金属のメッキが、ちょうどバイメタルの様に作用しているのか分からないが、不思議と寝かした時の下向き側に金具が全て緩く向いていた。

使わず寝かしていた時の癖が温度変化で現れたのか不明であるが、こういう不具合もあるのかと良い勉強に。

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これにてOH終了。

様子見をする