明治から大正に、郡司半助氏特許のテンプ型掛け時計、double clock co.(Trade W Mark)がある。
しかしながら、時代が時代なだけに、現存数と流通量が非常に細い。
年1回見かけるか、という様な状態であり、状態の良い物が果たしてあるのか疑問な所である。
先日、オクのオススメの欄に、この1台が上がっていたから、買っておいた。
何時もはスルーであったが、今回ばかりは、ピンポイントで当てて来た感がある(爆)
状態は不動品Junk。
蔵出し其の儘の様な子汚さだが、こちらとしてはこの方が良い。
というのも、シロートによって、機械をグッチャに壊されてしまうよりかは、其の儘寝ていた方が、復活させるには好都合なのであるからである。
小綺麗な壊れ物を買うよりかは、砂埃の被ったJunkの方が良い場合が経験からして多い。
そして何より、綺麗な物よりかは、断然安価で買える点もある。
機械を見てみる。
オリジナルは保てていそうな状態である。
それより何故この機構を搭載した、郡司半助の時計を欲しがるのかと言うと、機械が不思議な構造をしている点、何より風変りなデザインに惹かれてしまう。
普通は出テンプのデザインが、この当時の物としては流通量が多いが、ガンギとアンクルを見せる、そしてガンギ車を2枚にするという、他にはないセンスが気に入り處である。
置き時計で、振り子式でガンギが中央に出ているデザインはあるが、やはり2枚ではないし、振り子を見せるなら、ガンギは見えている意味がさてあるのか。ガンギと振り子が同期して動かないのであれば、それはそれで見ていて面白いが、同期していたら、何を見せたいのか、ゴッチャになって結果面白さが半減する様に私は思う。
かなり遅れが出ていたのか、ヒゲがかなり余して止めてある。楔もシックリ嵌っているから、オリジナルの様だ。
これらは時計屋の仕事の様で、元に戻りそうである。
試しに給油してみて動くか見てみたが、数回振動して止まる。
OHというOHはしなかったのか?
機械を外して裏を見ると、ゼンマイは巻かれているが、その場で固着し破断していた。
相当長い事蔵にでも入っていた事と思われ。
途中破断のゼンマイには遭遇した事がないが、巻かれた状態で寿命を迎えると、形変わらず維持して切れる物の様だ。
バネっ気もあって、緩めると一気に弾けると思われ危険である。
バラして洗い油で分解掃除する。
今回も超音波洗浄機は使わず、ハケで自分の手でやる事にする。
その方が不具合箇所も見つけられるし都合良い。
破断のゼンマイは、既に継ぎ合せをした様で、再利用している物だった。
昔の時計屋は、交換よりも安く上げるのに、こういう技を持ち合わせていて、安くて仕上がりの良い時計屋は評判であったはずだ。
今は交換ゼンマイも安いし、逆に継ぎ合せをやってくれと頼む方が高くついて、昔とは逆になる事と思われる。
もしかすると、継ぎ合せの意味も分からない...なんて事もあるかも知れない。
手に入らないゼンマイであれば、継ぎ合せや加工し直しをやるが、寿命が全体に来ている事と思うから、今回は交換してしまう。
しかし、この切れたゼンマイは鋼であるから、板バネ材に再利用出来るから、捨てるにはまだ早い。
昔のラジオ屋も時計屋も同じく、廃品は基本的には出てこない(笑)
before
after
アンクルは調整して折ってしまった様で、ハンダで止まっている。
80%位の確率でここはハンダで止まっている事が多い(笑)
ガンギのシャフト丸棒歯車部分がカシメ不良になったのか、グラグラしてバラけてしまった。
洗って叩き入れると今度は抜けなくなったが、何かの衝撃でまた緩むかも知れないが、まぁしっかり止まっていたから良しとした。
結構派手に汚れていた。
主に砂埃であろう。
これを巻き添えに動かしていると、研磨剤代わりにホゾ穴が摩耗しガタになってしまう。
油をくれて動きゃ良い、という考えはナンセンスであり、眼先のことでしかないという事。
良い設計であれば、尚更後年に残した方が良い。
検査
組み立て
ゼンマイは精工舎の1週間巻のバラしたストックがあったから、それを。
この組み方も方法があるから、単に組めば良いっていうモノじゃなく、少々勉強が要り用である。
自分は独学であるが、組んだらバラして、組んでバラしての繰り返しで、動作原理を得た。
尋常上がる前の事であるが(笑)
まぁ小さい頃から、蓄音機バラしたり、時計バラしたり、まぁ色々な事をやってました(笑)
尋常上がってからは、サウンドボックスの振動板の良いのがどれが探したり、球ラジオ組んでみたり、まぁ今となんら変わりません(爆)
テンプ検査
ヒゲが面白い事に、緩急針に入る前部分が45°程カーブしてカットされていて、仕様なのかミスなのかが怪しい所である。
ちょっとヒゲのタッチと、曲がりが出ていたから微調整した後の写真である。
乗せて試験してみると、案の定アンクルとの接触具合が離れ過ぎで、エラーを起こした時に振り石越えして停止してしまう。
ハンダを外して僅か長くして、テンプの戻り防止のカマボコに当たるようにする。
同時に振り角の調整もハンダ時に決めておいて、ガンギ、アンクル、テンプの真が一直線になる時に、振り石がその線上に来るようにしておけば、自動的に振り角のバランスは整う。
アンクルのゼロバランスを見つけるのは難しいが、元生えていた金具を基準に対して垂直にハンダすれば、アンクルのバランスはとれる。
微調整はアンクルの爪を僅か曲げ調整するか、上板の調整部を曲げてガンギに対しての当り角を調整すると良い。
この辺りは、もう経験の勘とが重要になるから、練習用にガラ箱に入っている様な、動かない物を何台か動くようになる様にやってみると良い。
挿絵の赤い斑点部がハンダ部分である。
ヒゲが曲がっているから、これは要調整。
楔を打ち込んでから、再度調整する。
やはり普通ではない。“変”である。
アンクルとガンギは、中間に設けられた中板と上板で構成されているが、上板と下板の角度と比べても一目瞭然、曲がっている。
普通は有り得ない曲がり具合であるが、これが不思議と上手く動く。
本機体で2台目であるが、1台目同様にやはり角度が付いている。
これを矯正しようと調整すると動かなくなるのは1台目で経験済み。
どうやらこれがデフォルトの様である。
イイカゲンな設計なのか、曲がっているから良いのか、もう何だか分からない次元である。
こちらとすれば、シャフトが曲がっていたら、気になるし後味悪いから、整えたいけど整えようとするとダメってんだから、もう参ったもので。
でも多分、設計ミス。でも返ってそれが良かった(?)のかも知れない。
なんて言うか、ある意味で人間味がある機構の様で、そう思えば、それはそれで良く思えてくる不思議(笑)
精度が出たら、それで良いじゃんっていうアンチョコな考えなのか、より完璧な機械を目指しているのか、どちらなのかな.....(^ω^;;)
まぁまぁ、触っていてそれが面白いという部分もある。
整えたヒゲであったが、取り付けるとカールしてしまい、上手くない事が分かったので再調整。
良くある精工舎のデスククロックやコンパス印の物よりも、リン青銅の板厚が薄く細い様である。
かなり柔らかいが、テンプも軽く薄く、僅かなトルクで跳ね返りの良さを実現している様である。
力任せに動いている様なタイプではない。
1時間程動かして動き続けているから、化粧板を掛けて戻してみる。
ビートチェッカーに掛けようか迷ったが、昔ながらに1日待って、結果を見る事にした。
中央ダイアルはオリジナルであるが、外側のシルバーダイアルは、オリジナルではなさそうだ。
Mに⚡︎マークがあり、Wには似ているが、別物。
ケースは純正らしい凝ったモノである。
寄木のトーマス型である。