A2 Laboratory. Work shop

Abraham Audio Device Industrial Labo.

ORTOFON KS601

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机と同時に運ばれて来た修理依頼品を捌く。

修理待ちが山積みで居間が倉庫化していて通れないと苦情が出ている(^^;;

1発目は珍しいオルトフォンの複合アンプ。

終段は6973という6BQ5みたいな雰囲気の球で、ppで押している。

症状は派手に歪む。

片ch音が小さい。

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手付けしていない物と思ったが、10年か20年かくらい前に誰か触ったらしい雰囲気。
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バイアス調整かと思ったけど、回路を見たらハムバランサ(?)

ヒーターバイアスでもってハムバランスをする様な感じであるが、意味が有るかは分からない。

片方、摺動子を折られていたが、裏で固定抵抗が付いていた。

現状でハムはない。
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試運転。

派手に歪む。大きい音は全くもって出せない。
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片側の終段には信号が入っているが下側の波形が潰れている。

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もう一方には信号が来ていない状態に等しい。

スパイクみたいなトゲが下側に少し出る。

プッシュプルでありながら、B級シングル動作をしているから、出力は得られないし、歪んでいるし。という状態。

もしも歪んでいなかったら、出力が大きく出ないだけで、ppの様なシングルとして動作していた可能性がある。A級の範囲で。
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何がどうして信号が出ないのか探ると反転部分で信号が出ていない。

それもプレート側。B電圧は掛かっている。

パターンをよく見ると切れた箇所やら怪しい部分が多いが、腐食によるパターン断線はなかった。

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結論は、反転の前段Pから、反転のKに繋がる10μFがリーク。

低圧で80k示すから、プレート側よりもカソード側に電流が流れて動作しなくなった事と推測。

変わった回路構成だから、分かるまでに時間を要した。

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フィードバックループをカソード直に入れて、応用速度を上げようとしているのかも知れないし、最短信号ループを構成してあるとも見受けられる。

 

故障症状を解明してみると、ECF80の5極と3極はダイレクトカップリングであるから、グリッドよりかカソードが僅かに電圧が高く出る。

(正常時、実測カソードより-5V)

この赤で囲った10μFが漏れを生じる様になると、B電圧が5極部よりも3極のカソードへ流れる割合が多くなると、カソード、グリッド間の電圧はもっと大きく開く事になり、最悪カットオフレベルに達するとプレート電流が流れず、増幅もしなくなる事と考えられる。

では何故、カソードへ信号が現れたのかであるが、5極のプレートは抵抗を2つシリースにしてその間に10μFが挟まっている。

この10μFは3極部のカソードに入っている抵抗を経由してマイナスへ戻るから、デカップリングには働かない。

従って、カソードへ信号がプレートの信号が現れる。

正常時にも、ここへは信号が現れ、最短の信号ループが構成される事と思われる。負帰還には働かないであろう。

但し、10pfは5極部のグリッドへ戻っているから、これは高域が負帰還になる。しかし10pfという小容量であるから、高周波発振を防止する為に入れたと考えられる。

よって、3極部のバイアスが深く印加され、カットオフ状態になり掛け、動作しなくなった場合に、カソードへは3極部の電流は流れず、10μFから漏れる電流がカソードへ流れ、そこに5極部のプレートに出た信号もRpを通して流れ込み、カソード部分だけに信号が現れる不思議が起こったと考える。

 

バランスのVRは30Ωの巻線で、出力で出た信号をNFBで戻す最中に、バランスで負帰還量を調整してバランスを調整するという、これまた珍しい回路。

10p、18pの小さいチタコンが多く、バランスを崩すと発振し易い可能性、CRフィルターも多く入っているから、少々癖強めかも知れない。

際どい高音は出ない回路に見える。

家庭の民生機器にしては面白い回路を採用したものだ。
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交換とで問題なく両側から信号が出ると、大分大きい音が出る様になった。

NFの量がどれ程か分からないが、10:1になっている。

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試運転。

6BQ5と同じ程だとすれば、8W位は得られるかな。

前段のECF80はペントード側が大凡12AV7似で、トライオード側が、12AU7似か。

終段を完全にドライブできる様によく考えてある。

ここで12AX7を使う様だと急にラジオっぽくなるが、流石目の付け所が良いオルトフォン。

 

Bにはヒーター立ち上がり迄に電圧上昇があるから、バリスタを入れて無負荷運転になる30秒程を上手くカバーしている。流石。

 

-Cは妙な構成で、0.068μFの電流制限をして半波で電圧を得る方式である。かなり珍しい。

仕事効率は悪いが、抵抗でドロップするよりか熱は出ないし、ショートしなければ安定的。上手い事やっている。

これにもバリスタが入っているから、電圧上昇を上手くバランスしている。

でもって、平滑は少しリプルを残していて、Bも完全に平滑していない事が分かった。

ハムバランサで打ち消して静かにさせる方式なのかも知れないが、固定抵抗でも全く気にならないレベル。(フォノで確認しても)

実に面白い。

聞いていて昨今の様な、ハイエンド的な際どい音はしないが、民生向けにしては上等。

 

ps:数百万というハイエンドのシステムを店で試聴させてもらったが、際どい高音が出ているが、中抜けしている様な、映画で言えばセリフが聞こえないで、ドンドン、シャリシャリしている様な感じで、EQで下げさせてもらったら-下は10dB位下げ、上は-5dB下げた位がフラットな感じに聞こえたが、真ん中も妙な所にピークがあるのか、癖っ気強かった。

少し安いモデルは逆にフラットらしい音だが、モコモコしている様な具合で、上を3dB程上げると晴れる印象だったが、中抜け感はある。

コップを口に当ててる様な。

多分スピーカーがボンついていて、モヤモヤするのだと思う。洞窟から聞こえる低音みたいな、ボゥン ボゥンと妙にアタックが長くなる様な抜けの悪い様な、洞窟感。

無理矢理口径の小さいユニットを鳴らしているのだろうなと思わせる。

 

まぁそれは置いといて、明日も確認して完成にする。