明治43年から大正5年迄のSTロゴの佐藤信太郎、佐藤時計製造所の頭丸ロングである。
ただ普通の時計、というワケではなく、天候予測のストームグラスが傍に付いていて…
もう一方には温度計が付いている変わり種。
華氏と表記されていると思われる。
最低は30℉か。
今室温は10℃程度であろうから、50℉を示していれば良いが、割れてはないが上にも液が入り、真ん中で空気が入っていて不良の様である。
上は110℉まである。
留め具は腐りきっていて簡単に外れてしまった。
裏に白くペイントしてあったらしいが、ほとんど残っていない。
軽く拭いて温めてみたがやはり動かなかった。
金具は元の部品で修繕しておいた。
機械を拝見。
明治後期、大正初期…そんな具合か。見慣れた新しい機械である。
またアンクルギャップが広くなっているのか、爪先で蹴っている様な雰囲気だ。
更に左に随分と機械バランスが寄っている様である。傾けないとバランスが良くなさそうだ。
ゼンマイは両方一杯一杯に巻いてあったから、試しに動かしてみたが、粘って動かなかったが、摩耗の加速防止に努めてくれていると思えば、粘ってくれていた方が良さそうだ。
振り子室の風防にもSTマークが入っている。
所有のもう1台はReguratorと入っているだけでトレードマークはない。
昭和34年迄は修理に出していた様である。
香川県大川郡引田町の池田時計店をググると、近年迄やっていた様であるが、“旧”になってしまっていた。
ボンボンは何故か佐藤時計のは鳴動が大変に良く、残響も綺麗で伸びの良い深い音が持続する。
最も興味深いのは、ハンマーが真鍮の無垢であり、マレットではないのであるが、あの嫌な金属のガンガンする嫌な音がしないのである。これには研究されている事と推測する。
一先ずダイアルのハンダが割れて落ちていたから、これを修繕する。
案外簡単な様で大変に難しい。
何が難しいのかと内訳は、ハンダの熱でダイアルが焼ける事である。
酷い作業のものは茶色くなり、ブクブクしている。最悪は剥がれ落ちる。要はコテの当て過ぎなのである。
しかしながら、これがまた溶け難いから難易度が高い上に、トタンにハンダを一から乗せるのは焼かずしては無理に等しい。
継ぎ足しただけでも、僅か縮れが生じさせてしまったが、目立たないから良しとする。
ダイアルをよく見たら、Made in japan F. とあった。
Fというと福岡、福井、福島?
名古屋は愛知だから、ダイアルの製造は外注の可能性があるか。
ロングオクタゴンの方はFの表記はなかった。
とりあえず機械を洗う。
虫の抜け殻やら土埃やら、半世紀分(?)かな。
知り合いに、熱心に触ってみたいという若者がおるから、手解きと共に工程を伝授した。
然し乍ら、今から工具類を集めようとするとどうももう手に入らない代物が多い様である。
これから始める、というのは結構大変であろう。仕事には多分ならないであろうし、工具も作らないとならない物が多い。
これから廃業する時計屋の廃品を箱幾らで買って…というのも現実的では無さそうだ。
物がない時代、即ち昔に戻ったという具合か…
Return to for ever.
LPは良く聞くが、自然回帰。それであろうか。
洗い終えた時には一寸先が見えない程に。
ゼンマイも埃だから一緒に洗った。
最外面と内側は洗えるが内側は洗えないから、戻して拭いて薄く油引きしておく。
これがでガシャンとやらなくなる。
時3番車のホゾが摩耗してガタが出ているから詰めておく。
ガタ確認とスムーズさの確認。
良好。もう一度洗っておく。
本組み。
良好。
裏板のナットは既に紛失であった。
動作に問題ない事を確認し給油して仕上げる。
試運転。