UX-71パラppを、2本減らしてppにして欲しいという改修依頼(本題)あとは手入れをお願いされている。
何でも、音が重なっている様な、ボケた音がする様に聞こえて、これはパラっているからではないかと思って、今回の依頼に至ったという経緯。
モノ単発で2台来た。
開腹。
あまり纏まりの無い配線であるが、物珍しい面白い回路を組んではいない様で分かり易い流れで線が行き来している。
Jensenのカッパーホイルがカップリングに入っていたが、我國では湿気の問題で、銅箔が錆びて腐食し、絶縁が早い段階で悪くなり、ノイズが出る問題があって、あまり好ましくないが、漏れも無いし、まだ使える状態だから残す。
ゴムのパッキンであっても、モールドであっても、結局ゴムのシールは完全ではないし、樹脂を流したとしても、リードの隙間から混入する可能性は高い。
球でも、ガラスが割れていないのにも関わらず、長い時間を経て空気が入っている事もあるから、完全なものはない。言ってみれば、寿命はどの道ある。長いか短いかの違いではある。
回路を起こすと、問題が見えて来た。
まず入力のボリュームであるが、Bカーブであるから、これではボリュームが上げられない問題が1つ。
いきなり音が大きくなる様に感じる為。
次いで初段のB+であるが、信号帰還のデカップリングが無い。
カソードにはデカップリングがあるが、B+は負荷抵抗47kとシリースに、抵抗20kを通って平滑部分に迄戻って帰還する事になるから、遠いし全段が一緒くたに混ざっている事になる。
20kは信号を阻止するのに役立ちそうに見えるが、負荷抵抗47k+20kであるから、67kの負荷抵抗が入っているという事になる。それも其々が離れた箇所で働いているから、信号がこの離れた位置を通ることになる。
これは芳しくない動作状態である。
次いで次段のB+も終段との信号絶縁に抵抗が入っていない。
ppであれば、完全なる状態であれば、相互で打ち消しを生じて、Bはシングルの様に揺さぶられる事はないから、この様に横着をやっても、なんとなし動くであろう。
モーターボーディング発振を起こしても不思議ではない状態である。
何故だか、47μFに220μFが足されていて、ハムを消そうとしたのか、モーターボーディングでも起きたのか分からないし、信号帰還の悪さを容量で補う目的であったのか、よく分からないが後者の様な気はする。
ppであれば、9H、12Hのダブルチョークで十分ハムは消せるはずで、やはり、もしかすると容量を減らすとモーターボーディング発振を起こす可能性がありそうな気がする。
そんなで、まずは回路設計がミスであるから、遠い音がしても不思議ではない。ボケた印象というのは多分、ここの事を言っているのではないかなと想像。
これを変更して、音を一旦聞いてもらって、それでもダメであれば、パラレルをやめて、ppにしてみる方向にするのは如何かとオーナーに訊いたら、それは面白いという事だったから、まずは回路変更と改修を行う。
試しに現状で試聴してみたが、少し暗い音がするかな?低域は豊かに伸びている様子。
リバーブが多く掛かったソースを聞くと、リバーブとで重なった音が粗っぽい様な気がする。
残音が歪みになっている様な。
聞いていると特定の音がやはり歪んでいるらしい。ザラザラしている。
段間がクラーフになっているけれども、.47μFでは少ないか?
残留ハムは50mV程。
高能率のS.Pでは聞こえるかな。
ダブルチョークで50mVは大きい様な気が。アースに問題があるかな。
特性は特に悪い訳ではない。
なるほど…
なるほど…
電源部分のマイナスは、トランスを出てB-スイッチを出た後にシャーシに落としていて、増幅初段の方を1点アースにしていた。
これだと、初段の方へ終段の方からの割と大きい電流が流れ、それがシャーシ板を伝って電源へ戻っている。
回路図の通りの順番を守ると、上記の様な様式になる。
初段から順に、終段へ向かってマイナスの電流は増える。
電源ユニットが単体でない限り、これは守った方が好ましい。
別ユニットであっても、大電流側を近く、小さい側を遠くに置いた方が良い。
高周波、ラジオの場合は一番最寄りのシャーシへ落とすのが良い。
低周波は1点アース。
メーカー品を修理していると、低周波アンプであっても、色々な所へアースしているし、シャーシを通して電流を流すやり方のアースをしている事もあったり、トランスから出てすぐをアースしていたりと、その様なやり方を目にする事はある。
これは、メーカーが配線材のコストを下げる為にやっている事もあるが、メーカーはアースポイントを測定し、定めて設計している。
従って、素人が真似をして、何処でもアースしてやっているのとは違うから、問題が生じる可能性は高い。
これを調べるには、接地抵抗計とはまた違うが、板へ流れるハムの量でポイントを探す。
かなり古典的なもので、高gm管のグリッドに検電器を取り付け、シャーシを撫でてハムの小さくなる場所を探す。
g-kでショートさせて調べるのである。
これは、水の中を電気がどの様に走るのかを調べる実験と似た様なものであるが、もっと僅かの信号である。
水の場合はクリスタルのレシーバーがあれば、音を聞く事ができる。リード先から放射線状に伝っているのが分かるかと思う。
そんなで、そういう調べる事をやらない場合は、トランスを出た所ではシャーシをアースをしない。
実態配線図だとこの様になる。
内訳。トランスに近くアースしていて、且つここに電流を流す場合には、いち早く帰還したいマイナス側はすぐにトランスへ戻る。
平滑しているCをB+で通している様に、コンデンサCの端からマイナスは取るべきである。
不可解なノイズやハム(バズ)の原因を防げるし、後々の探る面倒もなくなる。
まぁまぁ、そうは言っても、これを守っていても、厄介な問題が起きる事はある。
そういう時は、マイナスも平滑してやるのも1つの手である。
修繕箇所が多いが、全解体をしなくても良さそうだ。
220μFのCは外し、前段との絶縁用の抵抗も追加し、10μFのBデカップリングを2本追加。
電源は3pが付いているが、直出しを希望されていたから、パネル再加工してきた。
AC lineの配線をして完成。
インレットは外すと穴が残るから其の儘。
配線は通っていない。
試験。
正相で出ていたからこれで良い。
NFBはかかっていない。
三角波。
下が入力側
ノコギリ波。ソース元が良くない(^^;;
f特を見てみる。大きく変化無し。
出てくる音は少し明るいかなぁ。コントラストが少し上がった様な印象はある。
中間トランスの180kを2個外してみた特性。
ハイが上がるかと思ったが、変化は無かった。
ただ、外した方がより明るい印象。
抑制されていた感じが開放された様な、オーバーシュートが多くなったのかなという印象(笑)
多分、フワッと鳴る様になっている気配。
ハムは20mVppに下がったが、初段のUY-76のマイクロホニックとが大きいから、これ以下にはならない。
球に手を近付けるとハムは増大する。
UX-71は古典球であるし、1930年代初頭のセットと比較したならば、これでもハムは小さい方であろう。
そもそも、そんな低い音が鳴るスピーカーもweの劇場用を除いたら無いから、盛大にハムがあっても少し鳴ってる程度にしか聞こえない。
それでもより消そうと、スピーカー側でハムバックを付けたタイプは、より賢い設計と言える。
古典球を使うならば、当時と同じセットを使うべきで、ソースも時代を合わせるべきであろう。
まぁまぁこれであれば、現代でも通用する仕上がりである。