A2 Laboratory. Work shop

Abraham Audio Device Industrial Labo.

ATO / 穴石交換

ATOの小型は、振り子長が実測64mmであり、これは1往復0.5078secという事が計算上分かったから、7200往復の設計なのであろう。

試運転期間が長かったが、色々と問題箇所が見えて来た。

まず、金の接触子の使用であるが、この金無垢の電気的接触は非常に良い。

然し乍ら、それを受ける真鍮や鉄のボスや台座に問題があり、綺麗に一体化していて、一見して良さそうに見えるが、この間の抵抗値が大きい。

ハンダを互いに僅か流し、一体化を更に良くしてやるだけで、この問題は解決し、振り子の振り幅も接触率も格段に上がる。

但し、ハンダもまた金属である事から、時間の経過と共に腐食や亀裂が生じるであろう。

それに材質の違う金属同士を繋いでいる点もあるから、温度差で動く率が異なる点も挙げられる。

ただ、ハンダの場合は再度溶かして接合すれば良いから、単純と言ったら単純な補修で良い。

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内一台は、巻き直したコイルで良く動いているが、接触子の問題で振り子の振り幅が浅くなり、振り子は僅かに動き続けるものの、運針迄行かず、止まっている症状があった。

振りが浅い場合に、通電時間が長くなるのか分からないが、電池も0.8Vへ減圧していたから、接触子の問題を解決させた。

組み立てついでに、タイムグラファで歩度が見られるか実験。
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7200振動で打点が出るが、荒ぶっていて線にはならない。
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一番様になる箇所を少しづつ回して探してみると、無い訳ではなかったが、波を周期的に起こしている事が分かった。

早い時、遅い時とで、波にはなっているが、この波がある意味で正確にどちらかに流れる事なく、平均していれば、時間は相互で打ち消しになり、基準よりズレる事はなくなると考えて良いだろう。

上の図の場合は、上へ傾いているから、早い方向へ進み気味という事になる。

送りの歯車は1週15テンポだから、半々で考えても歯車の偏差が出ているのかも知れない。次の歯車は1週60秒だった。即ち、4秒で送り車は1週している。

検知トリガは送った時の僅かの爪が落ちる時の振動だけであるから、歯車の歪みがあるとトリガの周期が変わってしまう。

ただ時計としては規則正しく動く振り子に依存している訳で、歯車側に特に動力源がある訳ではなく、あくまでも振り子が運針用歯車を1コマ1コマ送り出すだけの事であるから、この歪みは無視しても問題では無い。計測の場合には不利ではある。

光星舎や東海標準時計の様に、1コマづつの接触子が固定の場合は、この電気信号をタイムグラファーに入力する事で、より精度の高い計測ができるかと考えられる。

 

 

§

 

 

チェルシーの置き時計のテンプ、穴石の問題について、セカンドオピニオンを先方さんが希望されたから、今日、29日に持って行った。

船橋は久しぶりである。京成の車内は外人とキャリーを持った人と乳母車とでそこそこ混んでいた。乗り換えを間違えると松戸やら他の方へ行ってしまうからややこしい。

お店は明日から休みだから、ちょうど今日が今年最後の営業のギリだった。

良かった事に社長(会長?)が居てくれた。

いつもは息子かママが受け付けで、やりたくない様な、こりゃ社長に訊かなきゃ分からない類だから、預かりで良いか?と言われる流れだった。後から電話が来る。

あまり顔を会わせる機会が少ないから直接話せるのは良い機会。

職人だから、回りくどいよりも直球で言った方が良いから、”テンプ上板の穴石が割れていて精度が出ないのだけど、交換をお願いしたく…”と言ったところ、

”ほぉ。まずは見てみるかね”とその場で分解。

”ところでなんでそんなに詳しく分かるの?他の時計屋にそう診断された?”

と訊かれたから、元の元は、持ち主が(お客さん)時計の病院に修理に出した所、石が割れている趣旨の事を言われ、うちでは交換できないから、此の儘使ったらどうかという事で、OHして数年経って止まる様になって私の所へ持ち込まれた訳で、私も石の交換は出来ないので、お願いしたく…と、全て内訳を話した。

”その時計の病院なるのは初めて聞いたなぁ。石も交換出来ないのに、病院って言えるのかね?おかしな時計屋もいたもんだ(笑)ところでキミは?”

恥ずかしい限りで言い難いから、電氣時計の研究していますと、まぁ本当に独学で研究(?)しているわけだし、合っているだろうし良いだろうと思って言うと、

”おぉ面白いね、いいね(笑)”と。

”それでOHはしたから、オレに石だけ交換してくれというワケか!そりゃまた虫の良い話しだ!”

”…冗談だけどね(笑)”

いやホント、そう言われても仕方ないなとは思っていて(^ω^;;)

穴石売ってあげるから、自分で交換してみたらと言われるかなと思ったが…

”これ、当然オリジナルの交換品はもうないから、合わせてガタのない、合う石を探さないとならないから…まぁやってみるか。その代わり石は交換するけど後の精度なりの保証はできないから後は頼むよ”

と。

ただ、寝かすと現状でも大凡良い所にタイムグラファで確認出来るから、後は上手くやる事を言うと、”真ん中で安定するからね、その時だけは良いだろう”と。やはり強ち外れていなかった。

”1月25日迄期間もらおうかな。今の年末は修理多く混んでて忙しいから、合間に探して入れとくよ”と。

”機械を見ながら、こりゃ凄い凝った作りだね、100年は動く作りだなぁ。イギリスかな?あぁアメリカ製か、いやぁ凄い上等だな”と言うから、私も同感で、気が合いそうな気はした(笑)多分やる気も出たかと思う(笑)

息子は無関心そうに隣に居たが(^^;;

 

そんなで、利益にならない様なこちら都合の申し訳ないお願いを引き受けてもらえた。

ただ彼は本当に職人だから、良い仕事をしてくれるのは間違えない。

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もう6年?8年?前かに、LEONIDASのテンプの振り石を超音波洗浄機で外し壊した時も入れて欲しいとお願いして、今日に至るまで動き続けている。

そこまでやるなら自分で石もどうにかしろよと言いたいであろうが(^ω^;;)

言わないで受けてくれるだけ有難い。石だけ入れてくれなんて失礼申し訳ないのは100も承知。

時計屋の同業が来るくらいだから、石の在庫も相当あるのか、それとも入手ルートを持っている事と思う。

なんにせよ、普通じゃ嫌がるであろう事をやってくれる事に感謝せねばならない。

病院で病名が分かっているから、それをどうにかお願いしますって、患者が言うものじゃないのはよく分かっている(^ω^;;)

先生同士の事であれば許されるのかも知れないが、私はその土俵でもない。全く素人同然が土足で失礼な事は理解している。とにかく彼には感謝以外にない。