A2 Laboratory. Work shop

Abraham Audio Device Industrial Labo.

戸上式電気巻時計

戸上の自動巻を入手。

精工舎の物を使った改造品でありながら特許物であるが、知らない人には縁の無い(?)隠れ名機と思っている。

その方が有難いのであるが(笑)

f:id:A2laboratory:20210223162308j:image

戦前の機械であろう。状態は良い。
f:id:A2laboratory:20210223162319j:image

時報部分を上手い事自動巻機構に変換してあり、マツダの電気時計で言う所の、精密モーターの部分にあたる。

低トルクでゼンマイを巻く程の大きい力へ変換しているのはアンプと同じく、MagP.Uの小さい信号を増幅して終段で大きな電流へ変換してスピーカーを駆動させる。これと同じである。

f:id:A2laboratory:20210223162316j:image

外側からも線が切られているし、内部でも切断されていた。

絶縁不良で切ったのか、誘導モーターのコイル断か、或いは電気巻の意味も分からず単に切断しただけか。

とりあえずメガーで絶縁を見てみる。
f:id:A2laboratory:20210223162312j:image

1kVで200メグだから、とりあえず絶縁はOK

紙で絶縁されており分解してもコイルは見えないが、恐らく配線材の絶縁の方が悪い可能性が高いと思われ。

f:id:A2laboratory:20210223162850j:image

ボルトスライダーで印加してみると、ブンブン回り出した。

なんだ、問題ないじゃない(^ω^;;)

f:id:A2laboratory:20210223162807j:image

オーバーホールもせず良く動くが、寝かしていないと回転子が寄っていて起こすと干渉してしまい止まってしまった。

どうやらこれが原因で配線は切ったと推測。

モーターを交換しようと思い起こさなくて良かった。前に入手した物はベルトが掛かってミシンの大きいモーターが付けれられていて、どうしようもない程壊されていた。

色々試したが、誘導モーターが上手いバランスで仕上がっていて、原型に真似して作っても上手くトルクが得られなかった。

f:id:A2laboratory:20210223163019j:image

アンクルをかなり浅く掛かる様にして振り幅を狭めたらしい。

昔擦っていた鏡面になった部分と、現状の接し位置が合わないからである。

小トルクでも動くかと思ったのか分からないが、逆に掛かりを浅くすると蹴り出しに力が入らなくなるから、止まり易くなり逆効果。

案の定、振り竿を外しても動かない。

f:id:A2laboratory:20210224094728j:image

本来は振り角が決まっているから合わせてやる。

これにてパタパタと動いているから具合良い。

上から給油はされているからかも知れないが、ホコリを連れて動いていると、これが研磨剤の役割になって、ホゾが広がり壊す原因になるから分解掃除、OHをする。

f:id:A2laboratory:20210224163803j:image

バラしていると2番車が1番に干渉する事を発見。

香箱のハンダがゼンマイの広がる力で外れたらしい。
f:id:A2laboratory:20210224163809j:image

ゼンマイを香箱から出して、叩いて矯正してハンダを盛り2番車に干渉する部分をヤスリで仕上げておく。

あまりにも薄くするとなる今度は香箱としての機能が危険になるから程々である。f:id:A2laboratory:20210224163822j:image

温めても楔が抜けず、叩いて楔自体が内部で広がり、カシまっても大変だからやめておく。
f:id:A2laboratory:20210224163812j:image

ゼンマイは拭いてやって、ウエスにグリスを取ってやって拭く様にしてやって香箱へ詰める。

こうしないと緩んで広がった時にガシャンとやってトルクが一定に保てなくなる。

香箱のない物でも、これは必須である。

良く上から油を垂らして染み込むだとか言っている者がいるが、経験からして一部しか染み込まないし、染み込みが良い様な油は乾燥が早いから、一時的に過ぎない。

長い目で見て大切に思うならば、拭いてグリスアップした方が良い。

f:id:A2laboratory:20210224163757j:image

今回の機械には巻き止め機構が入っていて、後の精工舎のタイムカードの機械に応用された物と同じであった。

時報の4番車に丸頭のリベットがカシメてあって、これが右のレリーズによって引っ掛かり強制的に止める。

f:id:A2laboratory:20210224163824j:image

レリーズの相手側はゼンマイに取り付けられたレベラーによって、巻き加減を検出している。

戦後の精工舎服部時計店のタイムカードマシンは、レベラーの相手側をスイッチにしていて、ON-OFFを大凡10時間に1度、インバーバルにして常にモーターは回らない。

最も、大きいモーターで短期間にゼンマイを巻く仕掛けである。

戸上は精工舎の物を改造しているくらいだから、逆に精工舎はエッセンスとして技術を得たものと思われる。

お互いにwin-winであろう。
f:id:A2laboratory:20210224163815j:image

洗って組み上げ。

2番車の干渉で1番車の歯が少し欠け始めていたが、入れ歯を要する程ではまだないから其の儘とした。
f:id:A2laboratory:20210224163819j:image

電動機の回転子ホゾは赤い石が綺麗な状態であった。

f:id:A2laboratory:20210224174545j:image

早く沈殿したが結構汚れていた。

真鍮の粉は、香箱の修繕加工で出たものである。
f:id:A2laboratory:20210224163800j:image

リアランス調整。

無理に詰めるとホゾ石を割る可能性が高いから、上下のギャップを保ちながら良い位置に調整、ガタが最低限になるように最終的には狭めて完成。
f:id:A2laboratory:20210224163806j:image

動き確認...
f:id:A2laboratory:20210224163754j:image

100Vで動かすとブーンと回転子が共振を起こして、それが筐体を通して壁に入ると、何処からともなくブーンと鳴って気になるという事を経験があるから、電流を抑えて最低トルクでバランス良く回す方法にする。

Cをシリースに入れるだけであるが、これならばコイルがレアショートを起こしても電流はそれ以上に流れないから、電流が過大に流れてる燃える様な事からは回避できる。

しかしながら、戦前の品物が今の今に動く様だから、エージングもとうに過ぎて、問題のないレベルに迄達しているのではないかと思っている。

問題があれば、早い段階から不具合が発生するハズである。

さて今回は勝手が何時もの機械と少し異なるから、0.7μF程でやったら100V出ていて、スルーだったから、0.57μFにして80V程で具合良い。

結局のところ、前のと同じ値だったかな。

f:id:A2laboratory:20210224174613j:image

アンクル角度を触ったから機械バランスを調整してやり、筐体に合わせてゼロバランスを出せば良い。
f:id:A2laboratory:20210224174610j:image

振り子は遊びを無くす為に随分と大きいバネが裏へ掛かっていた。

これは戸上が追加したものかな?

ボンボンは不要だから、外した跡があるから、時計屋かで買ってきた物の様である。

もしも部品単位で本社から買っていたとすれば、この様な事はなくなるであろう。

f:id:A2laboratory:20210224174607j:image

銘板は何時もの黒塗りの物ではなく、真鍮板に浮き文字。

NPの型番は同じであるが、色違いがあったらしい。
f:id:A2laboratory:20210224174615j:image

文字盤はセルロイドかな。

Seiko-shaとMade Inの表記が削り取られている。

6下の文字の長さからして、Seiko-shaの後にOccupied Japanと入っていたかな?それともKinshicho Japanかな?分からないが、同型機のオリジナルがあるはずだから、それに書いてある事が真実という事になる。

時報の巻鍵穴が空いているが、不要の飾りである。

 

まだ短期であるが、具合良く巻いているし動いているから具合が良い機体だった。

私もエッセンスを得て、変わりダネを作れないか検討中である(笑)